大判例

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仙台高等裁判所 昭和40年(う)176号 判決

判決理由〔抄録〕

前記前照燈を下向きにしたときの照射距離については、被告人の検察官に対する供述調書によりこれを認定したことが明らかであるけれども、道路運送車両の保安基準三二条二項二号によると、前照燈を下向きにしたときは、夜間前方三〇メートル先の距離にある交通上の障害物を確認できる性能を有することを必要とするとされ、車両検査は年一回行なわれ(被告人の当審第六回公判での供述)ること、当審提出の車両検査の月日に関する電話用箋によると、本件自動車の車両検査月日は昭和三八年一二月二四日であり、本件事故はその後僅か二ヵ月半位後のことであること、本件自動車が事故当時特に照明につき支障のあったことの証拠のないことや、本件自動車の照明に関する当審受命裁判官の検証調書を対照してみると、本件自動車は、事故当時においても右の保安基準に適合する照明のものであったと認めるのが相当である。これによってみると、被告人が前記のように対向車を発見して照明を下向きに切替えた当時においては、前方注視を怠らない限り、被害者が進路上に横たわっていたことを発見したものと認められる。(前照燈切替以前に発見すべき筈であったことは当然考えられるが、この点は省略する)この点に関する原判決の判断は誤りといわざるを得ない。

つぎに前記司法警察員に対する被告人の供述調書と、同検察官に対する供述調書につき、その内容を仔細に対照検討するに、両者が必ずしも原判決の判断のように根本的に相違していると断ずることはできないのであって、検察官に対する供述においては被害者発見の経過を稍細かく現わし、警察におけるそれは、前方に横たわっていたものが人間であること、その位置、姿態をはっきり認識した時点を特に明確に表現したものであると認め得られる。検察官調書の内容が、原判断のように、特に信用し得ないものとすべき資料はない。以上のことは、前段説明の前照燈の照射距離を考慮すると一層諒解し得る。以上によると、被告人が被害者を進路上の障害物として発見したのは検察官に供述した前方約二〇メートルのところと認めるのが相当であり、かりに原判決説明の前方約一一メートルとするときは、甚だしく前方注視を怠ったという結果になる。以上前記照射距離の関係並びに前段掲記の被告人の各供述調書を総合してみると、本件事故は、被告人の前方に横たわる障害物の確認が遅かったため、急制動の措置が遅れ、効を奏さなかったものであり、被告人が前方注視義務を怠らなかったならば、少くとも二〇数メートル以前に被害者を発見し、右側に避けるなり、或は急停車により、本件事故の発生を防止し得たものと認められるのであって、本件事故は被告人の前方注視義務の違反によるものと認めざるを得ないものである。被害者が泥酔して普通には予想されない進路上に横たわっていたことは、量刑上斟酌されることは格別、これがため被告人の過失を否定することはできない。

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